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人生、バカが得をする―――
【プロローグ「嗚呼、栄光ある人類の歴史かな」】
●第0話:「嗚呼、栄光ある人類の歴史かな」
アバシア歴21年。
人類はこの年、長年に望んだ悲願を叶えることになる。
彼らは長くもの間、
北からの侵略者《魔族》たちにより、凄惨なる支配を強いられていた。
その年月は魔族の侵攻まで含めれば、優に8世紀!
耐え忍ぶにはあまりにも長い時間であった。
理不尽なる暴力と抑圧。響き渡る悲鳴と呻きの声。大地を染みる血と汗……。
世界を覆う絶望の海の中、一縷の光明が射し伸びる。
――《勇者アカサタナ》
神より伝説の聖剣《ダイナルダスター》を授かりし、光の英雄。
愛と平和の天使。祝福されし偉大なる人類の守護者。
後の世にて救世主と呼ばれる彼は、災いの元凶なる魔族らを千切っては投げ、
殺しては殺し、更には殺しまくった。容赦なく。そりゃもういっぱい。
彼の歩く道には、常に紅き正義の泉が湧き上がり、
その泉を民衆が喜びの歌と共に泳ぎ続く。
その勢いは留まることを知らず、
時の大魔王バラレン率いる魔族軍を容赦なく殲滅&誅殺して進軍す。
やがて彼らは、北にある決戦の地《アールグレイ》にて、
大魔王バラレンと対峙するに至った。
その戦いは熾烈を極め、北の白きキャンパスを紅色の絵の具で無尽蔵に塗りたくる。
三日三晩という意外と短い戦いを経た末に、ついに大魔王バラレンは力尽き倒れる。
《聖母》は彼を北の大地へ永久的に封印し、その勝利の歓声に酔いしれた。
だが、その代償は少なくは無かった。
勇者アカサタナもまた大魔王との激闘で力尽き、大地の抱擁にその身を委ねたのだ。
栄誉ある死。
アカサタナはこのとき真(まこと)の英雄となった。
民衆は彼の死を悲しみ、彼の遺体を大々的に埋葬した。
近年の王たちですら霞むほどのそれは大きな大きな葬儀。
荘厳なる旋律、静謐なる民たちの声、優麗に彼を讃え謳う吟遊詩人たち。
あらゆる音という音が絡まり、美しく、悲しく、彼の死を包み囲んだ。
大陸中の人々が集まり、その葬儀は一ヶ月続いた。
彼の功績は末代まで誉れある伝説として語り継がれる。
世界は彼の功績を讃え、彼の誕生年を栄えある人類たちによる世紀の元年とした。
その暦の名前は《アバシア》――
グリランド語で“世界”を冠する言葉。
この偉大なる英雄とその地に生きる人々が、
己の信念を貫き、自由を手に入れ、何気に虐殺もした大地。
それがこの物語の舞台となる大陸の名前である。
<第1話へ続く...>
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